麻辣香锅の特辣は試すな
シンガポールには麻辣香锅という料理がある。
割と色々なところでお店が出ていて、入手しやすいローカル飯のイメージ。
お店のカウンターには沢山の食材が並んでいるので、その中から自分が欲しい食材(野菜やら肉やら)をとる。で、お店の人に差し出すと、
- 米か麺か(麺にも種類がある場合が多い、インスタント麺かラーメンかなど)
- 辛さはどの程度か
- ここで食べるのかテイクアウトか
などを聞かれるので、それらに答えるとパパっと炒めて自分だけの麻辣香锅を作ってもらえる、という感じだ。
お店にもよるけれど、だいたい材料のミニマムが決まっていて、それが$6とか$7。で、そこにスープ代$2、麺が$1、みたいな感じで毎回適当に選んでも$10~$13くらいになる、というイメージだ。
私が最初麻辣香锅を食べた時は、辛さは中辣(Medium)にした。
それでも十分ぴりぴりときて、大変おいしい。日本では出会った覚えのない、なんともいえない辛さの料理だ。
麻辣とついているのでわかると思うが、トウガラシの辛さと花椒のぴりぴり、そしてにんにくが効いている。
辛いもの好きにはたまらない。し、色んな具が好きに選べるので楽しい。
そんな麻辣香锅の味に私はまんまと虜になって、もう毎週でも食べたいくらいの麻辣香锅狂いになってしまった。
個人的な具のおすすめはエリンギ、トマト、薄切りの豚肉。エリンギはむちむちとした弾力がなんとも言えず合う。トマトの酸味は辛さの中で異質な甘みを提供してくれる。豚肉は言わずもがな。れんこんもシャキシャキで美味しいのでかなりおすすめである。
とまぁ、そんな具合に自分の好みが出来上がりかけた頃、ふと思った。
辛さ、まだ上があるじゃん??
そう、実は中辣の上には、上とかふっ飛ばして特辣(Spicy)という辛さの選択肢があったのだ。
中辣でもそこそこ辛いが、特辣とは一体どんな辛さなのだろう……
むくむくと育つ好奇心に耐えかねて、ついに特辣を注文してしまった。
お店のおばちゃんは常に「Medium?」と最初に聞いてくるので、中辣が一番世間向けなのは疑いようがないのだが、果たしてどんな味なのだろうか。
とはいえ、水とかがぶ飲みして休み休み食べればいいだろう、と高を括っていたら、
この日に限って「Take away」だと伝え損ねていた。
特辣に興奮しすぎてすっかり忘れていたのだ。
これは一大事である、なぜなら、普通にその場で食べると水がない。その上、コロナの関係もあるので長居できないから早く食べなければならない。
水を買えばいい話なのだけれど、高く付くので買いたくない。ということは、初めての特辣を水なし、そして休憩もなしに食べ切らなければならないのだ……絶望か????
絶望の中目の前に出された麻辣香锅がこれ。
うーん、普通に美味しそうでは???
正直中辣と匂いも見た目もそこまで大差ない気がする。
※と思ったけれど、食べ終わった後で以前撮った中辣のものと写真を見比べてみたら、あからさまに特辣の方が赤が多いネ
案外食べてみたらそう辛くないのかもしれない……!!などと思いつつ、恐る恐る一口目を食べる。
……
……
あれ?普通に美味しい!!
もちろん辛いけど、中辣とそう変わらないのでは!?割といけそうかも!!!!おいしいし!!!!
と思った。
思っていた、が……
食べ進めると……なんだか様子がおかしい……
まず、口がひたすら痛いような気がしてきて、次のひと口を運ぶのが苦しくなってくる。
次のひと口を入れると、稲妻のような刺激が口内を走る。まるで傷口に塩を揉み込まれているような感覚。
味もわからない。おいしい?違う、尖っている。ひたすら尖っていて、刺し貫いてくる。
食感も……もはやわからない。一生懸命噛もうとするのだけれど、なぜか飲み込んでしまう。味もわからないうちに飲み込んでしまうのだ。自分の意志に関係なく!
加えて、鼻水と汗が止まらない。鼻水が特にひどい。だばだばに出てきて、呼吸ができない。
これは……苦行か???????????
後半自分の頭の中では、「耐えて食べきる」という目標しかなく、味わう余裕は全くなかった。というか、口に味わう機能が多分残ってなかった。
必死に目の前のものを口に運んで、終わらせようとした。
いつもだと「もうなくなっちゃう!残念!!」と名残惜しく食べるのに、今回は「まだなくならない!なんで!?」の気持ちだけ。
周りも見えず、音も聞こえず、世界がぐにゃぁと歪むような感覚すらあった。
それでもなんとか食べ終えたのだが、今度は発声ができない。
口は炎が出ているかのように燃え盛り、言葉がそこを抜けられないのだ。
びりびりとした痛み、焼ける熱さ。
足元もおぼつかない、さらにはお腹のよくわからないところまで痛くなってくる。
「おいしかった~」なんて建前でも言えない。「つらい」しかないのだ。
一生懸命歩いて、家に帰った。まるでサバイバルだ。
家に帰るとまずは手洗いうがいをするので、洗面所に立ち手洗いうがいをしようとした。
すると!
え?今日こんな濃い口紅塗ったっけ????
そう、唇が腫れ上がり、変色し、まっかっかになっていた。ついでに唇の周辺も傷跡のような赤色がちらほら。水で洗っても取れないので、これは完全に傷ついたのだろう。
正直これを見たときは笑ってしまった。へぇ、ヒトって唇腫れることあるんだ、って思った。こんな赤くなるポテンシャルあるんだ。
ちなみにこの後もひどくて、
- お茶を飲むと一度は辛さが流されるが、お茶が消えたあとぶわっと舞い戻ってくる
- 運動をすると胃から炎が喉を伝って上がってくるのを感じる
- 普通にお腹が痛い
という散々な目に合わされた。
結論、
二度と特辣は食べない。
もっと平和に生きていきたいと思う。美味しいで済む中辣を食べよう。
皆さんも、もし食べる機会があったら特辣は本当に気をつけてください。